★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠い人 6

彼は親も友も、元の家族とも

繋がりを絶って久しい。

 

わたしが離婚をして彼の元に駆けつける、という行為は

彼にしてみれば

自分と同じように全てを捨て去り

ふたりきり、になってくれるという事だ、という解釈。

 

一方でわたしは

親きょうだい、友や子供らとの縁を絶つ気など

さらさらなく、

それらを片手に持ったまま

彼のところへ飛び込んだ。

 

最初の意向からすでにズレていたわけだ。

 

そうとは気づかず、

わたしの行為を責め鬱ぐ彼に

幾度別れを告げようとしたことか。

 

ふたりきりだと思い込んでいた彼は

わたしが彼以外の世界を優先することが許せない。

友からの長電話や

職場の飲み会

日中の仕事関連のパーティ出席

彼の休日にわたしが出かけてしまうこと

どれも彼にとっては不可解なありえない行為。

逆に

わたしからすれば

これらを許されない暮らしなどあり得ない。

 

それでも彼にあわせてみるほかないと思い直し

電話は出先でしか受けないようにし、

職場の飲み会もなるべく避け

仕事関連のイベント出席はわざわざ伝えず

休日はびったり彼と過ごしてきた。

 

あなたを第一にしています、を

前面に押し出そうとしてきたのだ。

 

溜まるストレスの発散先も見つからず

それでもそのようにしてはきたのだ。

 

家計の6.7割を彼に委ねる以上

彼に言われるままに仕事を始めた当初は

通帳を預けいったん給与を全額彼に渡し、

週に5000円をもらい、足りなければ補填をお願いしに行き、

嫌な顔をされてもへらへらしながらやり過ごし。

 

そうして営業という仕事柄

本格的な活動が始まってからは

急な出費に備えておかねばならなくなり

給与の一定額を生活費として渡し

残りは自身での管理が許された。

 

出来高次第の浮き沈みの激しい給与。

一定額を渡したとたんに次の給与まで

足りないことが明らかな時も多々あった。

けれど彼は言わせないのだ、足らないとは。

 

わたしの要望を叶えたのだから

その先までは知らない、ということらしい。

仕事に夢中になりたくとも

お財布の中身が気になり、集中できない。

活動を増やすということはそのまま出費増に直結する。

まぁこれはわたしがクレカを含む後払いシステムを利用できない立場であるせいでもあり、

そんな悪人にゆとりある手持ちを持たせる馬鹿はいないよ、と言われれば

それまでなのだが。

 

彼が誘ってきたときにだけ

ショッピングモールに行き、買ってくれそうな気配なら欲しがってみせて服を買ってもらい

彼がプランした旅行に連れて行ってもらい

彼が誘ってきたら外食をし

 

惨めな思いだけれど

彼に言わせればこの上ない待遇ということになる。

 

「代われるものなら代わってほしいょ。

僕なら、生活費を稼ぎ、先々の支払いにあてるお金を貯め、倒れたときには助けてくれる。

誰かがそうしてくれるとしたら

僕はなんの不満も持たないし

多少嫌な事を言われたとしたって

ハナコみたいに食って掛かったりしない。」

 

ハナコには親もいれば友もいる。

最終助けてくれる逃げ場がある。

僕にはない。だから僕はお金にはシビアになる。

僕のことをハナコはお堅い、真面目だと

まるで欠点のようにいつも言うけれども

こんな僕だからこそこの暮らしは成り立っているってわからないかな。

 

言わんとすることはわかる。

 

なら言うけど

 

わたしのことをあなたは

金銭にだらしない。先々を考えない。

刹那に生きてるふうでいながら

最終誰かに助けを求めて救われてばかりの人生だ、と、

まるで罪人扱いだけれども

そんな馬鹿なわたしだからこそ

あっさりと慣れ親しんだ居心地いい場所を捨て

あなたの隣にこうして居るわけで。

 

こんなふうなやりとりを3年に渡って繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し。

 

それでも

腫れるほどに平手打ちをされても

でてけでてけ直ぐに今、と連呼されても

最後の最後で

思いとどまってきたのは

 

わたしが去ったあとに彼に何も残らないとわかっているからだ。

闇から救うと誓い、手を差し伸べ

いったん薄明かりまで引き上げておいて

手を離したら

もとの闇に戻るだけでは済まないだろうと

おもうからだ。

 

そのおもいだけで

のみこんできたというのに

 

あろうことか

わたしに沿って沿って合わせて合わせて

苦しんできたのは自分だと

彼は言うのだ。