★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

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約ひとつきぶりの呟き。

 

外は大雨。

 

あれから

少しずつ会話が成立するようになり

いつしか笑顔を向け合えるようになり

わたし達は、大きな山をこえたようだ。

 

とはいえ、流れを強引に戻したのは

純粋な想いばかりではなく、

少々の打算もある。

 

秋にわたしの車が車検を迎える。

修理費用がかなり嵩むとみている。

以前に彼に提案されていたプランは

彼の車のローン完済時に

私の車を売り、彼が新車を購入して

いまの彼の車を譲り受けるというもの。

 

有難い提案なのだが、

新車購入を羨ましく思い、

わたしが、そのままを口にしたことが

彼の琴線に触れてしまい

そのプランは保留になったまま

無言大会に突入してしまっていた。

 

片田舎で車の無い生活は

仕事が出来なくなるという意味を持つ。

新たに車のローンを組む程の甲斐性が

自分にない以上、

半年先の自分を救うべく

早めに手を打つことを考えたわたしは

彼との関係が良い感じになったタイミングを

逃すわけにはいかなかった。

 

一旦は自ら台無しにしたプラン。

彼から提案されたとおりに、とはさすがに

かましいだろうと思い、

彼の今の車の残りのローンを支払うことで

譲ってはもらえないか、と頼んでみた。

 

私の車の売却益と、夏のボーナスを差し出せば

足りる額である。

 

刹那主義のちゃらんぽらんなわたしが、

きちんと少し先の未来を考え始めたことを

評価してくれたのかどうか、

すぐさま彼は次の車の購入に動いてくれた。

 

その週の半ばには、懇意にする販売先から

パンフを取り寄せ、

その週のうちに見積もり書が届き、

8月中には納車の運びとなった。

 

新車はコンパクトカー。

今の彼の車は軽。

ハナコの田舎に帰る、とか、

遠出用には軽ではつらいでしょ。」

という理由から、軽より大きめを選んでくれたのだ。

 

 

彼が選んだコンパクトカーも

彼から譲り受ける軽自動車も

正直なところ、好みではない。

 

贅沢は言えない。

好きなものだけに取り囲まれて

生きてゆけるほどの

わたしではないのだ。

 

その日暮らしをしてきたわたしが

半年先を見据えるようになってきた。

芳しいことなのだろう。

 

このひとつき、彼は優しくなった。

けれど

彼の中に根差してしまった、

ハナコたるヒト、は

消えないらしい。

 

彼はわたしを好いてくれているのはわかる。

ただ

わたしのことを信用は

していない。

ふざけながらの会話の端々にそれは顕れる。

笑って応じながらも

わずかに気持ちがササクレそうにはなる。

 

以前と変わったことは他にもある。

わたしの為に彼が何かを差し出す、という

事が皆無になった。

食費はもちろん、雑費も個別会計。

 

わたしが彼のビールをついで買いすることはあっても

彼がわたしの口にするものを買ってくることはない。

平日の夕飯は共にするようになったが

食材はわたしが調達する。

 

彼がそれに関して何も言わず

折半にしようとしないところをみると

たぶん、家計のトータルバランスとしては

夕食分くらいはわたしが提供して、ちょうど良いくらいなのだろう。

 

願いは

半分くらい叶えば

充分なのだと

折り合いをつけて

進んでゆこうか。

 

わたしは賢くなったのかもしれない。