★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと14

昨日今日と

自分の仕事の合間をぬって

2時間ずつ彼の職場に顔を出した。

またいちからやり直して

彼の仕事を覚えてゆくことにしたのだ。

 

これはこれ、という事で

職場モードのおかげもあり穏やかな時間を過ごす。

が、帰宅してからはわたしの方は他意も何もないながらの無言自分モード。

彼の方も同じくスマホをいじりながらの自分の時間を過ごす。

夕飯も各自が用意して各自で済ませ

タイミングが合えば食後のコーヒーを2人分いれる。

 

なんとも奇妙なふたり暮らしだが気楽ではある。

 

そんななか今日仕事の合間に

わたしの夜のバイトの話を振ってみた。

彼は昼間の仕事が定時で終わるため、平日はアフターで9時から11時までのバイトをしている。

これはわたしと暮らすずっと以前からの事。

ひとりの時間を闇に吸い込まれないように

過ごすための彼なりの工夫のひとつらしい。

来月からは7時出勤にするのだという。

2時間から4時間。2倍の時間だ。

 

これまでのバトルの最中

彼の望みを叶えていないわたしが

自分の望みだけを口にすると非難されるたびに、

わたしの方が彼に経済的負担をかけているということを例に挙げられることが嫌で

わたしも彼に合わせて短時間の夜のバイトをしてきた。

事情があって、それを辞めたときにもまた一悶着あったのだが、

まぁ次を、また探すよと言いながら短期のバイトでしのいで今まだ固定先は決まっていない。

 

先日、昼間の仕事でお邪魔した飲食店が

夜のバイトを募集していると聞き、

店や従業員らの雰囲気をみて軽めに名乗りを上げ、店主から近いうちに詳細連絡するよ、といわれている。

 

その旨を彼に伝えてみたのだ。

 

以外な返事が返ってくる。

「個人の飲食店とか、ありえない」

 

。。。。なんでょ。。

 

まぁつい最近、ノリで、近くの個人の飲食店で働くと決めて、いざ働いてみたら

あって無いようなシフトや、神経質すぎる店長とソリが合わず、ソッコー辞めた経緯があるので

彼が懸念するのは仕方ないのかもしれないが。

 

しらーっとした空気が流れるなか、彼が話し始める。

「チェーン店で働く、というのはわかる。

普通、たとえば主婦がパートに出るよ、となったらまず個人の飲食店はないよ。」

。。そぉか?。。

 

「まぁ、仕事なんてなにをするかは個人の自由ではあるよ?だけど、たとえば僕の心象が悪いところへ行くというのであれば

それをするにあたっては、ハナコはそれ以外の事をよく考えて動かなければならないよね。

わたしだって働いているんだから!みたいなふうにしてはいけないよね。」

 

。。えっと。。

つまりはわたしが飲食店で働くのは嫌だと。

嫌なことをするのだから、働かせていただきます、すみません姿勢でいろと?

混乱する。

反論ではなく問いかけようと言葉を探す。

 

「あなたはなんの相談もなしに今のバイトを2時間から4時間に増やすことに決めてきたとおもうのだけど、それはいいの?」

 

僕のは新たに始めようとすることではないから良いのだ、という。

ハナコはさ、僕が夜のスナックの皿洗いのバイトに行くよ、と言い出したら嫌じゃない?

皿洗いだから店の女の子達と絡んだりしないよ?と言っても嫌でしょ?」

 

。。いや。。べつに。。

 

飲食店つったって、わたしが行こうとしてるのはカレー屋さんだしアルコールも出さないし

確かに厨房にいるのは男性だけど日本語もたどたどしい他国の方だよ。

つまりはあれか。異性との交流がある場所が嫌だと言ってるわけだ。

 

チェーン店のスーパーだろうが

個人の飲食店だろうが、配送業だろうが

本人がその気になりゃ、異性を求める動きをすることは出来るとおもうけどな。

 

なにより、そんなふうに言いながら

あなたは来月からバイトの時間を増やして

平日の夜わたしを5時間もフリーにしてしまうのだよ。

バイト先で起こるかもしれない事よりも

そっちの心配の方が先ではないのかな。

 

それにね、

わたしがあなた以外のひとに気持ちをもってゆかれることを案じるのに

あなたの言葉であなたに対する気持ちが変化することは平気なの?

 

「バイトはとりあえず他も探しながら考えるよ。あのね、なぜ飲食店がダメか、『異性がいるところは嫌だからやめてくれ!』と言うのと、さっきみたいな言い方をするのとで

わたしの心象はまったく違うものになるよ。

わかる?」

そう告げて彼の職場を後にした。

 

彼は

なぜ急にバイトの時間を増やすのかとの問いかけに

ハナコは明日そのクルマが壊れたらどうするつもりなの。僕が用意出来なかったらどうなるの。」と返してきた。

 

ご心配ありがとう。

だけどね。わたしね。少し前に決めたの。

わざわざ言わないけど

わたしね、この先どんな窮地に立たされても

あなたに助けてくださいとは言わないって。

乏しい人脈の端の端を伝い頼ったとしても

蔑み疎まれたとしてもあなたに助けを求めることはしない。

そもそもピンチです、という状況をひた隠しに隠すよ。

 

そうはならないとおもってた。

なんでも相談しあえる味方が出来たと思ってた。

だけどそうじゃないみたい。

 

あなたはわたしにいちばん近くて

いちばん近くに寄ってきたからこそ

誰よりも遠いひと。