★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと18

くしゃみが出るときに

へっくしょっ、のあと、遅ればせながら

唾液が飛び散らないよう口をすぼめると

ついでに、くしょっ、を重ねてしまう。

 

これは単なる癖なのだが

 

これをやると、隣で彼が不機嫌になる。

おかしいでしょ、と言うのだ。

 

へっくしょ、で終わるものにわざわざ

足すことがカンに触るのか何なのか。

さわったところで、あからさまに不快感をぶつけてくるほどのことか?と思う。

 

意図して何かを狙っているわけでなく

単なる癖なのだ。

  

それでいうなら最近マシだけど

以前の彼には変な癖があった。

話している最中に、喉をんっんっ、とならして

鼻をすするのだ。

風邪でもなく、すする鼻水も出ていない。

タイミングによっては話の腰を折る感じにもなり、なんだろ、と思いながら流してきた。

その癖がみられなくなった折、

さらっと、あれは何だったのかと問いかけてみた。

 

いわゆるチックのようなものだと思う、と彼は答えた。

ああ、ならばやっぱり不用意にそれが頻発しているときに聞かなくてよかった、と

胸を撫で下ろした。

 

彼は自身を普通ではない、と言う。

なにが彼をそうさせたか彼自身で分析も済んでいる。

わたしの見解もあるにはあるけれど

伝えたところで、ハナコになにがわかる、と

言われそうだから敢えて言わない。

あなたはこうだからこうなってこういう人だよ、は禁忌だと思っているからだ。

それは彼以外の万人に対しても同様である。   

  

彼が求めるのはおそらく

自分を庇護してくれる存在だ。

要するに母だ。

 

わたしにはその資質があるとみたのに

そうではなかった。

彼にとってさぞかし残念なことだろうけれど、わたしだって残念だ。  

 

残念すぎて毎日途方に暮れているのだ。

誰か時間をくるくるっと

巻き戻してはくれないだろうか。

 

あのころのわたしに伝えなければ。

それはまちがいだよ

かいかぶられすぎだよ

 

足るを知りなさい

 

あなたにできること、出来ないこと、を

よく考えなさい