★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと19

用事がひとつあり

タバコが切れたタイミングで出かけた。

わたしがまだその気になれないため、いっしょにと誘うことはせず、ついでに買ってくるものはないかと問いかける。

 

無表情ながら平常だよ、をアピールするような声色で

ビール以外はとくにないかな、とのお返事。

 

もともと屋外で過ごすことが好きではない彼。

ふたりの関係が不安定なときには特に

外出しない。

 

わたしからみたら彼の、切れ長すぎるツリ目は魅力的なのだが、

彼は自身を醜いと思っているらしく、顔を晒すことがたまらなく嫌なのだ、と言い、出会った頃はマスクマンだった。

 

花粉の季節は悪目立ちしないし、違和感なくマスクマンでいられて安心なのだとか。

 

夜にシャワーを浴び、

朝には髪をまたシャワーで洗い

出かける前にはまたシャワーで髪を洗い

わたしよりずっと神経をつかって身を整える。

 

洗面台にいる彼を見てはならないというルールもある。

鶴の恩返しの、おつう、の禁忌事項くらいの重要度だ。

洗面所とトイレが差し向かいにあるため、

ときに尿意に耐えらきれず、彼の背後を通りトイレに駆け込むのだが

その時もなるべく身を低くして洗面所の鏡に映る彼のほうへ視線を向けたりは絶対にしない。

ごめん、トイレ。。と呟きながら彼の背後に足を運んだとたんに

ぴきっ、っと彼が緊張するのがわかる。

踏み込んではならない聖域に入らないで済むようにしないわたしが悪い。

彼がそこに立つ前にトイレは済ませとけ、って話。

 

鏡に向かって髪を整えている自分を他者が見るなんて

彼には耐えがたい苦痛なのだろう。

 

わたしだって、顔面にはひとところ、激しいコンプレックスがあるし、鏡に映る自分をみるたびにげんなりする。

 

彼はいうのだ。

僕がハナコだったら怖いものなしだよ。

ハナコの顔だったら何処へだって堂々と行くし、

見て見てわたしを、っておもうよ。

 

客観的にみて、パーツごとの形が整っているのは断然彼の方なのだが

要はバランスなのだ、と言う。

 

わたしのひどい寝顔や

うつりのひどい顔をせっせと写メっては保存し、

やめてほしいと言っても

なんで?かわいいじゃない、と笑いながら言う。

彼が撮るわたしは、そこに悪意しかないんじゃないかとおもうくらいにブスだ。

自分で撮るときに

ちょっとでもマシに写ろうと加工してもどうにもならない面相なのに

気を抜いた瞬間に盗撮されたものとなると

目も当てられない仕上がりになる。

 

テレビで活躍する女優さんを見て

かわいいよねぇ。。と言うのだから

彼の美的感覚はたぶん普通なのだ。

 

それでいて

ぶっさいくをさらにぶっさいくに撮っておきながらの、

かわいいじゃない、なのだから

そのかわいい、は文字通りではない。

 

わたしのぶっさいく画像は彼を

安心させるための材料なのじゃないか、と勘ぐる。

 

そうしてその実

彼は自分の顔をそこまで嫌いじゃないのじゃないか、とまで考えてしまう。

 

なんだか

この連休

 

気持ちが落ち着かない。

ソワソワしながら本ばかり読んでいる。

彼はゲーム。

 

向き合って

話があるんだけど、のひとことを

かける気にならず

 

そんなことはしない方がいいかもしれないと

おもいはじめている