いちばん近くて遠いひと34
昼間は春めいた陽気。
まだ朝夕肌寒くはある。
夕方からバイトに出る彼を見送ることに
なれてきたようなそうでもないような。
今日もふたりの会話はわずか。
昨日より少しだけ多い。
おふろ、入ってないのか?
ひさびさに彼発信の言葉。
シャワーを浴びようと脱衣していたら
パンツの前下部分にほつれ穴を発見し、
もうお暇をあげようと、そのまま捨てた。
帰宅した彼が洗濯機を回して干す段になって
わたしのパンツがないことに気づき
発したのが
おふろはいってないのか?だ。
書くと10文字くらいの言葉だが、
最近彼がわたしに向かって発した言葉のなかで
最大文字数だろう。
その、貴重な言葉に対してのわたしの言葉が
パンツ、穴開いちゃって捨てたんだ。
なんとも情けないセリフである。
パンツに穴が開かなかったら成立しなかった
会話。
前歯が1本抜けるくらいの事があれば、
その顔でにっこり笑いかけるくらいのことをすれば
さすがの
彼も笑うのだろうか。
声をたてて。