★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと37

タイツをストッキングにかえて

気分を春仕様に移行しているこの頃。

 

なんだかドタバタした1日だった。

合間に彼の職場に顔を出すも、

滞在時間の半分をわたしの業務連絡に費やしてしまった。

 

知り合いの接客中、楽しげに笑いながら

話をする彼。

沈黙の対象はあくまでわたしひとり。

 

そりゃそうだ。

接客なのだから、わたし以外の誰彼に

だんまりではいられない。

わかっちゃいるし

ふたりの関係がどうあろうが

わたしだって、ひとたび彼のそばを離れれば

周囲に明るくにこやかに接する。

 

沈黙大会の最長記録を更新し続ける今。

 

前は最長でも2週間くらいだった。

わたしが大会の途中で挫折してしまうのだった。

大会を終わらせる手段はたったひとつ。

 

この状況が嫌だ、と不満をぶつけること。

 

そうしたら

こ憎たらしいほどに冷静な彼が

淡々と、何故この状況に至っているのか

この状況がつくられたのは必然であって

必然に至った後に、それを良しとしてきた結果なのに

不満を言うとは解せない、

というようなことを語り

 

如何にわたしが身勝手なことを言っているか、

について、さらにこんこんと語る。

 

それらを、はい、そうですね、で終わらせてしまうと、沈黙大会続行。

 

続行しないためには

彼の言うことに抗って、騒いで、

まだまだ彼に語らせなければならない。

 

それはまるで化膿した皮膚を切開して

押しつぶしながら膿を出すようなもの。

出し切らなければ治らない。

 

わたしの考えや、意見を通そうとするよりも

語らせるのが目的になる。

 

彼はわたしが、勝敗や上下にこだわってばかりいる、と言うけれど

その実、わたしよりもそれに捉われているのは

彼の方だ。

 

ディベート大会の勝利は相手の沈黙で決定する。

 

貴方の言う通りだよ。

わたしはだめだね。

幾度やっても同じことを繰り返してしまう。

ごめんなさい。

けれどこれからはこうしてゆこうとおもうの。

そうしたらふたりはうまくゆくのじゃないかしら。

 

そんな

しおらしい言葉と態度を見聞きしてなお、

語り足りない彼は、語り続け

夜が明けるまでビール片手に語り語り語り

自分の気持ちの落としどころをみつけ、

数日かけて、わたしの側に戻ってくるのだ。

 

いざなうのはわたし。

ずっと、ずっと、ずっと、ずっと

そうしてきた。

 

 

いまはしない。

できないのだ。

この状況が嫌で嫌で辛くて辛くて、と、

わたしが思ってはいないからだ。

 

それはふたりの関係性上、良くない傾向だと、わかっている。

けれど、演じることは出来ない。

 

わたしは、わたし自身や彼の気持ちの変化を

望まないのではない。

出来るならば普通の彼氏彼女のように

労い合い、敬い合い、語り合い、楽しいときを

共有したいのだ。

 

けれどその願いは毎度ふたつきも持たず。

伸縮するゴムが

次第にくたびれてのびのびになり、

ひび割れて

さらに数回引っ張るとちぎれてしまうように

 

くたびれかけているのだ。

 

また寄り添って、また、離れて

それほどの耐久力が無いことに

気づき始めてしまった。

 

いまのわたしは

川の流れの中にいながら

逆流に挑むことも、流されきることもせず

小石の角に引っかかってゆらゆら揺れている

葉っぱみたいなものだ。

 

大事にすくいあげて、そっと岸辺に運んでくれる優しい手を待ちながら。