★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと30

仕事の締め日が近い。

週明けには数字を上げなければならない。

 

こういうとき、焦りむやみに動いてどうにかなったためしがない。

ラストチャンスに、と取ったアポイントは夕方。

 

それまでは通常と変わらぬ動きをしていようと心に決めて、昼食を買って彼の職場へ向かった。

さて、今日は何を教わろうか、と思案していたら、

たまたま、わたしに教えるに良い取引があった後だったようで、

彼の方から、これさ。。これこれ、こうなんだょ。だからこうするんだょ。。と

指導を開始してくれた。

 

こうなると、がぜんこちらも教わりやすくなり、質問することも出来る。

短時間だったけれど、いつもよりもすっきり頭に入った気がする。

忘れないように新しく作った専用ノートに

書き記し、タグを付けておいた。

 

ラストチャンスの商談は、なんだか気抜けするくらいにあっさりとまとまり、日曜に契約の運びとなった。

 

そんなわけで

今日はひさしぶりに満たされた日になった。

 

帰宅してからの過ごし方はなんら変わりなく

彼はいつものように洗濯物を取り込み

ソファでのんびりしていた。

 

わたしも買ってきた灯油を、よいしょ、と

ベランダに置いて着替えてから、簡単な夕飯を済ませて、遠くに住む友人とライン。

本当は世間話から商談に運ぶという下心があってのアクセスだったのだが

互いの近況報告をしているうちに

時期尚早と判断したのでやめておいた。

 

少し前までは

彼と居る空間において、他者とアクセスするなんてもってのほか、だった。

その頃の彼が言うには

それはまるで、お金持ちがお金に困っているひとを前に、

あれこれ買ってみせるのと同じだ、と。

 

他者との繋がりが皆無なひとの隣で

他者との繋がりを見せつける、は悪、だったのだ、あの当時は。悪意がなかろうと。

 

その後、彼の考えはかわったようで

自分が持っていないのだから

お前も持つな、は無理な話だ、

自分が間違っていた、と告げられた。

 

いま、こうして何時間も話さずそれぞれが

好きなことを勝手にしている、これが

快適かといえばそうではない。

会話したり笑いあったりふざけ合ったり

前のように出来たらな、とはおもう。

 

けれど

過ごしにくいのか、といえば、否だ。

 

たぶんふたりともベースは身勝手なのだ。

いまの状況は

自分のしたいときにしたいことをする、

それが叶っている。

束縛は気持ちの証でもある、と思ってはいたけれど

気持ちの証がギラギラ提示されなくとも

束縛がないのならかまわないとおもえる。

 

すこしだけのさみしさと

すこしだけの居心地の悪さ

有事の対応能力を満たす準備が整っていない不安

すこしのこわさ

 

それらの対価がもたらしてくれるものは

これまで欲して得られなかったものだ。

 

たまに、でいい。

たまに近くに身を寄せたときに

すんなりと身を合わせてくれたらそれでいい