★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

閑話休題2

奇妙な夢をみた。

 

夢のなかでの出来事は

細かな部分は忘れてしまうのに

その時感じた想いだけが色濃く残り、

目覚めた後の数時間、その色に翻弄されてしまう。

 

なんとも切ない気持ちを残したその夢は

たしか

誰ともわからぬ想い人が登場し、

その方には幾人もの取り巻きがいて、

そのなかには彼の側にいるにふさわしい秀でて美しく、心綺麗な女性がいた。

 

わたしはどういう経緯だったか

彼らのもとを訪ねて、なんらかの目的を果たそうと挑むのだが、おもうようにゆかず、

その群を抜いて美しい女性が手助けしてくれたように思う。

あぁ、彼にふさわしいのはこの人で

わたしに付け入る隙などないのだ、と

すんなり納得しながらも、彼を想う気持ちに

諦めがつかず

わたしがこの女性のようならば良かったのに、

と、彼女が彼女であることに羨望の眼差しを注ぎ、想いに蓋をしてそこを去ったように思う。

 

その女性の風貌を思い出すに

元の夫の友人の妻に似ていた。

女優です、と言われれば、そうだよね、と

誰もが納得してしまいそうなその人は

当時はまだ少女の面影を残す、愛くるしい女性で、

女性に手練れた元夫の友人に夢中になり

会うたびに求婚をして

彼の心を射止めて妻の座についた。

 

大人びた女性が好みだったその彼は、

結婚して、結婚して、とコイツが会うたびに言うから

だんだん可愛くなってきてね、と

新婚当時に、目を細めながら話してくれた。

残念ながら、この夫婦ものちに別離するのだが、

当時の彼女は

夫のことをHくんと呼び、理不尽な要求だろうが夫が望むことに全てにこやかに応え

安いアパートで暮らし

2人の男児を育てながら、夫の安定しない収入を支えるべくパートに出ていた。

 

まだ彼らの初めての子が、お腹に宿ったばかりの頃、私たち夫婦は彼らのアパートに招かれた。

夕飯を食べに行こう、という話になり、

部屋着の彼女が、何を着ようかな、とニコニコしながら押入れの襖を引くと

無造作に積み上げられた衣類が目に入った。

あまりに乱雑で、すこし驚いたわたしに気づく様子もなく、彼女は鼻歌でも歌い出しそうな顔つきで

山積みの衣類の中から黒のワンピースを引き抜き、ささっと着て、

結わえちゃおかな、と呟くなり肩までのびた髪を結んだ。

タンスがないことや、整理整頓していないことを恥じらう気持ちもないのだろう、堂々しているその様子は

屈託なく、微笑ましい。

 

支度を終え、みんなで車に乗り込んで発車して数分した頃、

彼女が忘れ物に気づき、運転する夫に申し出た。

このばかすけが!と罵られ、

Uターンして戻った時も

彼女は言い訳ひとつしない。

かといって大袈裟に謝るでもない。

 

背伸びせず、見栄を張らず、あるもの、ないもの、すべて晒す彼女は、当時のわたしとは

対極だったから

わたしはいっぺんに彼女をすきになってしまった。

 

元夫や、今の彼と、関係がうまくいかなくなる度に、わたしはいつも思ってしまう。

あの彼女だったらどうだろう。

あの彼女だったら

夫は、彼は、こんなふうにならないのじゃないか。

 

彼女がなぜHくんと別れたのか理由は知らない。

Hくんは

わたしといっしょにいても

すれ違う女性を必ず見つめるんですよー、と

彼女が不満げに呟いていたっけ。

 

Hくんは、駆け引きの必要な恋愛がしたくなったのじゃないかな、と、想像する。

離婚の際、いったんは子供らを引き取った彼女だが、

Hくんの方が子供らとの別れを諦めきれず、

自分が育てたい、と頭を下げ、

その方がいいとおもう、と彼女は快諾したと聞いた。

 

いま、どこでどうしているのだろう。

そばにいるのはどんなひとだろう。

あの頃の自分を彼女はどう考えているのだろう。