★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと50

不思議な現象が起きている。

 

あのせつない夢の所為なのか。

土曜の会食のときに久しぶりに聞いた、

彼の柔らかな声の所為なのか。

 

いまとなっては

コーヒーを飲む?と、声をかけるのが

精一杯の彼。

強引に布団に潜り込むことが出来るのも、

まだ夢の中で意識が混濁している時に限る。

 

そんな気弱な触れ方をしている事で

なんだか、昔、感じた片想いの感情と

そっくりな想いがわたしのなかに湧き上がってきたのだ。

 

すぐそこにいるのに

自ら手を伸ばすことが叶わず、

かといってまるまる無視されるわけではなく、

相手がどう感じているか、知る術もなく、

途方にくれて、だけども諦め切れず。

 

長期に渡るこの、無言大会で

わたしはすこしおかしくなっているのかもしれない。

ふたりでいるとさみしい、という思いから

逃れようと心が動いた先に

すり替えるにもってこい、だったのが

片想いの感情、なのかもしれない。

 

いずれ成就するやもしれない、という

パーセンテージの低いものを思い描き、

叶わないからこそ胸が締め付けられるのだ、

これはこれで貴い感情なのだ、とすることで

今の状況を麻痺させようとしているのか。

 

酔った勢いにせよ

身を重ねた彼を、やはり愛おしいと感じ、

彼もまたそう感じていてくれたのではないか、と思い、

だけどそれらを言葉を使って確認するなどという陳腐な真似は出来ない。

勝手に良い方へと想像を巡らしたところで

どこに害があるというのか。

 

そんなことがあったことすら

忘れてしまったかのように、なにも変わらない彼。

わたしも彼の目にはそう映っているのだろう。

 

以前は日課となっていた、耳の掃除をしようか?と

尋ねることすら出来ないでいる。

いらない、と言われたら

コーヒー以外に話しかける理由を無くしてしまうからだ。

 

こんな、片想いモードはいつまで続くのか。

叶わないならもう要らないや、と

捨て鉢になる方が、本来の自分だろうに、と

呆れるやら情けないやらなのだ。