★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと32

こころ穏やかな朝だったのに。

起き抜けに彼のソファに潜り込んで

背中抱っこで無言のスキンシップ。

 

灯油切れのアラームが鳴り

給油しようと灯油缶を取り出して

口を捻るもなかなか開かない。

 

彼が給油したあとは必ずこうなのだ。

幾度か、いくらなんでも固く締めすぎだよと抗議したのだが、

聞き入れてはもらえない。

 

わたしのチカラでは開かない。

道具を使うと回し口のプラスチック部品が

変形しそうで嫌だ。

 

しかたなく、開かないんだけど

開けてくれない?と頼むと。。。

 

手で開けなければならないという縛りでも

あるの?

 

とか言う。

 

。。。いや。。おめぇが締めすぎるからこうなるんだろーょ。。

嫌な言い方すんなやっ

 

と心で吠えるも無言で対抗。

 

道具を使いなよ。

手じゃ無理なら考えなょ。

 

言い方ならほかにもあるじゃないか。

よりによっていちばんいやらしい言い方選ばなくても。

 

急激に気持ちが萎んでゆく。

 

前は黙っていることが出来ず

いちいち突っかかっては事を荒だてたのだが

すこし冷静に対処してみるとする。

 

嫌な言い方をするのはきっとほかで

なんらかうごめく黒いモノがあるからで

それを出せない代わりに、こういうとこで

出してくるのだろう。

それが何なのか、彼が言うことをしないものを、

その、後ろに隠してるのなぁに?と

ご丁寧に聞いてあげる必要はない。

 

聞いたところで、わたしの気持ちが掻き乱されるのがオチだ。

 

黙って給油を終え

何事もなかったかのように着替えて

仕事に出た。

 

嫌な言い方をしたからといって

嫌な言い方だよね、と指摘して

相手に、わたしは今、不快ですよ、を

アピールしてどうなるというのだ。

 

殴られたわけでも、卑下されたわけでもないのだから

いいじゃないか。

 

彼の口から出てくる言葉どれもが

わたしの望むものではないからといって

腹を立てるのはおかしいこと。

望まない言葉が出てくる、くらいで

当然としとけばいいのだ。

 

彼はわたしではないのだから。