★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

美人怪獣あさみ

仕事のノルマ達成を激しく煽られ

すこし辟易している。

 

毎月数字を追うのだが、それは社内規定のポジションによって個々に違う。

わたしには上からふたつ目の数字が課せられている。

 

仮に与えられた数字が100とするならば

80を毎月クリアすれば給与は安定してくる。

もちろん100が連続すれば申し分ないのだが

なかなかそうはいかない。

 

さらにランクアップすると、追う数字は増え、

比例して給与もあがる。

最上級に位置しながら毎月ノルマを達成してくる猛者もいるにはいるが

わたしは彼女らを怪獣だと思っている。 

激しい炎を絶やすことなく吐き続ける超人的パワーは素晴らしいが、

怪獣なので、ヒトとして対すると怪我をする事が多い。

 

先日、担当するお客さんから電話があった。

もう、定期訪問しなくていいから、と言う。

そんなことを言われるようなことをした覚えがない。

驚いて言葉につまっていると、

「名前は伏せるが、あなたの会社のひとに、

定期訪問するときに手渡す物品は全て担当者の自腹なのに、それ、しらないんでしょ?、と言われて

嫌な感じがしたからもう来なくていい。

なんなら取引を他に変えてもいい。」

と言う。

 

懇意にしているその方は、乱暴な物言いはするが、根は優しく、情に厚い。

通っている病院で、怪獣と知り合い、

立ち話をするくらいの関係になったのだと、

すこし前に怪獣本人から聞いていた。

 

前後のやりとりがどんなものかはわからないが

想像するに。。。

 

他人との距離の詰め方が急速なその方は、

初対面の相手であれ、おまえ扱いをしてくるし、口が悪いので、気の強い怪獣を苛立たせるようなことを言ったのだろう。

 

わたしがその方のところへ、ほかのお客さんの比にならないくらい頻繁に足を運んできたのは、

社の情報誌が欲しいという、ご要望があったからだ。

情報誌の価格なんてしれたものだし、

欲しいと言ってくれるのならば毎週でもお届けする。

 

それを知っている怪獣が

あろうことか、わたしの顧客相手に憤慨して、

やり込めてやろうと、

余計な事を言ったのだろうと思う。

 

勘弁してほしい。

 

とんだとばっちりじゃないか。

 

ともかく、社の者が不快な思いをさせたことに対して詫び、

わたし自身、まったく訪問を厭う気持ちがないこと、むしろ、有り難く感じていることを

伝えてみたのだが、収拾がつかなかった。

 

その怪獣は、万人が認めるであろう美人。

残念ながら胸は貧相だが細身でおしゃれさん。

あからさますぎる上司へのゴマスリは鼻に付くし

身内との会話の口汚さは耳を塞ぎたくなるほどだし、

仲間の輪を掻き乱すような余計なことをするしで

困ったさんなのだが

成績はすこぶる良い。

さらっ、と大きな数字を取ってきては涼しい顔をする。

 

近寄りすぎないように気をつけてきたのに

噴射する火の粉を避けきれなかった、ということか。

 

その方との取引が無くなったらば

その時、ペナルティをくらうのはわたしである。

 

そうなるまでは、今回の件は伏せておくつもりだが、

なってしまったら。。

その時は

 

ウルトラ上司に報告せねばならない。

ウルトラ上司も怪獣の扱いには慣れている。

事を荒だて、咎めることは得策ではない、と知っている。

わたしはただ、なんの落ち度もないままに

怪獣にやられましたぁ、という事実を

ウルトラ上司が知ってくれてさえすれば

いいのである。

 

実に地味でいやらしい反撃ではあるが。