いちばん近くて遠いひと42
連休明けの月曜日。
すこしだけ気持ちが重くなるも気合いをいれて出勤。
あっという間に夕方を迎え帰宅すると
彼専用カレーが仕上がっていて、炊飯終了タイマーが鳴り響いていた。
今日のわたしの夕飯は、昼間食べ損ねたジャガイモとタラコのチーズパン。
彼がバイトに出勤してゆく前に食べ始めた。
いってらっしゃい、が耳に届いたのか届かなかったのか、はたまた
わたしが、はぃ、の返事を聴き損ねたのか
静かに部屋を出た彼を目で追うこともなく
ちいさな吐息が漏れる。
ミネラルウォーターが切れたことに気づき、とセンター止めにしてあった荷物があることを思い出し、着替えてすこしだけ外出。
帰宅して
昨日から始めた人形作りを再開。
手足が長く細い身体部分は完成している。
少し凝った衣類を着せようと、まずは下着から作り始めた。
赤字に白の水玉トランクス。
女の子を作るつもりだったのに、目鼻をつける段になって性別変更。
紫と白のストライプシャツを作ることにした。
型紙はざっくりと。
大まかに前後の身頃を裁断したら、端の処理をして縫い合わせ、人形に着せて身体のラインに合わせて待ち針で微調整。
袖を裁断して端処理をし始めたところで
彼が帰宅した。
おかえりなさい、といいながら目線は針に向けたままのわたし。
感じ悪いな、これじゃぁ、と思いながらも
目を離し、手を止める気になれない。
はぃ、の返事も聞こえたような聞こえなかったような。
1円にもならないような、
こんなことをして過ごすのが、わたしは好きだ。
いつも、思い描いた通りの完成度には至らないけれど、思い描く工程が好きなのだ。
かつての住まいでも、わたしはずっとこんなふうに、隣室に家人がいながらにして
孤独だった。
当時のわたしを彼は知っているし、同じころ
彼もまた家族がいながらにして、
ひとりぼっちだったことをわたしも知っている。
きっとふたりとも
それが不満だとこぼしながら、その実、
そうしていることが性に合っている、とも
思っていたのだろう。
気配があり、ときに話しかけられ
あとはほっといてくれる。
怒っているの?なにかあったの?と
煩く詮索されることもない。
身勝手なわたしと彼には
いまのこれもまた悪くない環境なのかもしれない