★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと45

今日もバイトから帰宅した彼が

洗濯機を回している。

 

2人で暮らすようになった当初、

朝も帰宅してからも顔を合わせる環境になった事で、わたしはオールOKになったものだと思い込んでいた。

だから、

離れて暮らしていた頃のように

日中にこまめにラインを送りあったり、

時間をみつけては電話をしたり、

そういった、彼の隙間すべてを埋めようとする事をしなくなった。

必要だとは思わなかったのだ。

 

そうではないと知ったのは随分たってからの事。

朝晩顔を合わせ、触れ合える環境があってもなお、彼は隙間時間すべてに配慮しないわたしに対して不満気な様子だったし、しばしばそれを口にした。

 

日中の営業職は日によっては朝からドタバタ忙しいし、デスクでの下準備や、車を走らせて顧客を訪問するスケジューリングで

頭をくるくる回しながら動いていると、

彼が待っている、と感じることがプラスαの

業務のように感じられてしまい、

仕事は仕事で集中したいから仕方がないのだ、と自分に言い聞かせ、

彼の事を意識から外す時間が次第に増えた。

 

それでも、やはり、定時に業務を終わらせ

寄り道をすることなく、急ぎ帰宅したし

週末に予定を入れることは一切せず

彼を中心に置いて

したくても出来ないこと、は、出来ないのだ、と受け入れていた。

こんなに我慢して合わせているのだから充分だろう、とわたしは思い、

足らない、足らないと求め続ける彼を次第に持て余すようになった。

 

彼が笑っていると、安堵し

表情が固いと、自分が何かしてしまったのかと不安になり、

冷たい物言いをされれば怒り、落ち込み、

存分に振り回されて過ごしていた。

 

このひとは

わたしのことを唯一だ、かつてなかったくらいの重要な存在だとしながら

この扱いはなんなんだ、とわたしも不満を抱えるようになり

彼がそうしたように、不満を口にするようになった。

 

毎月の恒例行事みたいな口論からの

無言大会は

都度、彼を傷つけ、わたしも傷つき

それでも締めくくりにはいつも

 

こうやって傷だらけになりながらも

話す、ということができるふたりは

悪くはないよね、と着地して、

これがきっと最後の口論だろう、と毎回、祈るように思い、

諦めることなく前を向いてきた。 

 

いまはすこしちがう。

 

話をすることをやめ、

傷つけあうことを回避して

互いに相手が考えることを知ろうとしたり

さぐってみたり、しない。

諦めたのか現状維持を最低限の目標に定めたのか、わからない。

 

話さないからわからない。

話してもわからないことでも

話しているうちにわかってくることもある。

それをしようとする動力源が

どこにもみあたらず、さがすことすらしていない。

 

春なのに

 

溜息のつきかたすら

わすれてしまいそうだ