いちばん近くて遠いひと48
ぎしぎしぎりぎりがりがり
すごい音を立てて彼が歯ぎしりをしている。
食事会は案の定、たのしい宴となり、
彼は鍋をアテにジョッキ3杯のビールと
酎ハイを3杯も胃に流し込んだ。
店から車で5分とかからない帰り道、
助手席からギリギリゴリゴリ音がする。
なにごとか、と覗きこんだら
目を閉じて眠る彼の歯ぎしりだった。
あまりに素早い眠り方に、すこし驚き、
意識を失ったのか、と、思わず声をかけた。
いっしゅん目を覚ましてふたたび眠る彼。
帰宅とともに部屋に入り、トイレを済ませて
ソファで眠ってしまった。
歯ぎしりは過度のストレスが原因か。
落ち着かない気持ちになる。
そういえば最近、彼はよく深い息をつく。
いま、上階の部屋から
赤ん坊のけたたましい泣き声が聞こえてくる。
彼もこんなふうに心は
泣いているのだろうか。