★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと48

ぎしぎしぎりぎりがりがり

すごい音を立てて彼が歯ぎしりをしている。

 

食事会は案の定、たのしい宴となり、

彼は鍋をアテにジョッキ3杯のビールと

酎ハイを3杯も胃に流し込んだ。

 

店から車で5分とかからない帰り道、

助手席からギリギリゴリゴリ音がする。

なにごとか、と覗きこんだら

目を閉じて眠る彼の歯ぎしりだった。

 

あまりに素早い眠り方に、すこし驚き、

意識を失ったのか、と、思わず声をかけた。

いっしゅん目を覚ましてふたたび眠る彼。

 

帰宅とともに部屋に入り、トイレを済ませて

ソファで眠ってしまった。

 

歯ぎしりは過度のストレスが原因か。

落ち着かない気持ちになる。

 

そういえば最近、彼はよく深い息をつく。

 

 

いま、上階の部屋から

赤ん坊のけたたましい泣き声が聞こえてくる。

 

彼もこんなふうに心は

泣いているのだろうか。