いちばん近くて遠いひと51
昼間、用もあって彼の職場に足を運んだ。
滞在できる時間はたっぷりあったのだが
年度末の整理業務に慌しく動く彼に
手伝えることはないか、と申し出るも、ない、との返事だったため、早々に仕事に戻った。
帰宅すると、ビーフシチューのような香りが部屋に充満していた。
食べ終えた彼に続いて、レンジだけで支度出来る夕食を用意して食べる。
いつものようにコーヒーを淹れ、彼に差し出す。
バイトは19時から23時。
昨日は21時から23時だった様子。
今日も21時始まりなのか、ソファでくつろぐ彼が寝息を立て始めた。
本を読んだりしているうちに19時過ぎになった。
彼の眠るソファに強引に潜り込もうとするも
眠りが深いのか、体勢をかえて迎え入れてくれる気配がない。
すこし意地になり、ソファから半身を落としかけるような苦しい体勢のまま、目を閉じる。
うっすら目覚めたころ、背後から引き寄せてくれないだろうか、と期待するも
こういう淡い期待が報われることまずない。
そのうちにトイレに目覚めた彼。
背後のスペースをあけたままにして待機。
同じポジションに戻ってきてからも、仰向けの姿勢を立ててスペースをあけようとする気配はなく、わたしは半身を落とさないよう力を入れてソファの縁にしがみつく。
ふと、振り返ると携帯を片手に画面に集中する彼。
すんっ、と気持ちがフラットになり
邪魔したね、とばかりにソファを離れてベッドに戻り、読書の続きをはじめた。
21時前になっても微動だにしない彼。
なんだ?バイト休みなのか?
辞めたのか?
昨今の流行病の影響か?
休もうが、辞めようが、いちいちわたしに報告しなくていいし、関係ないでしょ、ってことか。
まあ、わたしに影響があるとしたら
いつもよりさらに長い時間
ふたりでいることで
ひとりを強く感じる、くらいの
そんくらいのことだ。