★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと55

特に理由はないけれど

いつしか彼の領域となっているソファに座っている。

 

隣にいるからといって

触れ合うわけでも話をするわけでもない。

ただいるだけ。

 

彼は彼でスマホを触ったりゲームをしたり

わたしはひたすら漫画を読んだりして

各々の世界に浸っている。

 

ひとつの毛布を分け合い、座っている。

分け合うといっても

どうぞ、と言われたわけではなく、わたしが

勝手にソファの半分を占拠した為に

もれなく毛布が付いてきた、みたいな感じだけど。

 

ふと、思ったのだ。

ふたりとも、元に戻っただけなのだな、と。

一緒に暮らすようになってから、たぶん

わたしも彼も、すこし無理をしたのだ。

ふたりの世界を確立させねば、と意気込み、

ふたりのすべてを共有しようと、

時間も、思考も、趣味も、金銭感覚も、

一致させねばならないと躍起になり、

その果てに疲れ、今、こうなっているのではないか、と。

 

元来わがままで自己中な者同士。

自分の過ごしたいように、時を過ごし

相手に合わせることを考えない今のやり方は

素でいる、ということ。

 

話すことがないのに

話しかけねばならないか、と、考えたり

食べたくなくても付き合って食べたり

凹んでいるのに元気に振舞ったり

そういう無理をしないできた者同士が

 

見様見真似で仲良しごっこをやってみたけど

思いのほかキツかった、ということなのだろう。

 

出会った頃の彼は

殻にこもり、自分のことになると寡黙になる

人だった。

わたしは、自分を晒しまくるタイプです、を前面に押し出しながらその実、真の部分は誰にも見せなかった。

 

それでも互いに、このひとにだけは、と互いを別格扱いして本音で向きあおうと努めたのだ。

 

先日の彼からの

話はしない宣言を受けて以降、

辛うじて隙間を保っていたシャッターは

閉じることにした。

もうこれ以上に傷を負ったり負わせたりしたくないし

彼がどう思いどうしたいのか、を探ることをやめようとおもうのだ。

 

わたしがどうしたくて、どうするのか

そこだけに重きを置いてやってゆく。

 

過程や、都度の心情は自分だけで処理をして

結果が出たら決行するまでだ。

彼が結果を出す方が先ならば

立場上、追い出されるだけだ。

 

コロナ緊急事態宣言の渦中だろうが

いつだろうが

受けるしかない。

 

ただいま、に、はい、と返されるくらいなら

無言でドアを開ければいいし

いってらっしゃい、が返ってこないとわかっているのに

いってきます、と言い続けなくていい。

 

他人なのだ。

すぐ隣でビールを飲み続けるこのひとは。