★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

いちばん近くて遠いひと61

金曜の夜

彼のバイトのない日。

 

夕飯はいっしょにとるか、問いかけようか、と思い、すぐにやめようと考える。

金曜は早い時間から飲み始める彼。

つまみ程度しか必要ないからだ。

 

彼の職場からそれぞれのクルマで帰宅。

彼が立ち寄るであろうスーパーを避けて、別のところで惣菜を買って帰宅。

彼より先に部屋に入り、スーパーの袋をキッチンに置いて、部屋着に着替え始めたところで彼が帰宅。

買い物袋をふたつも提げている。

つまみ作りか、キッチンでゴトゴト動き始めてしまった彼を待ちながら

わたしが買ってきたものなかに冷蔵品はなかったかな、と考える。

着替えるより先に冷蔵庫に入れておけばよかった。お腹も鳴ってきた。

 

しばらく待って、彼が食べ始めたタイミングで

キッチンにゆき、自分のスーパー袋から惣菜を取り出し、ジュースを冷蔵庫にいれる。

 

ちらりとカウンター越しに彼に目線を向けると

倍速か、と思うような勢いでラーメンをすする彼。

つまみ程度じゃないんだ、今日は。

いつも裏をかかれてしまうなぁ、と思う。

まぁ、わたしが作って食べてもらったからどうなる、でもないけれど。

 

食後は、なんだか、気分を変えたくなって

暗闇になったリビングを離れ、わたしの部屋となりつつある元の寝室で

昼間図書館で借りておいた本を読み始めた。

 

このひとつきで、いったい何冊読破しただろう。

きっとあの図書館を利用しているひとたちのなかでベスト3には入るだろう。

日に5冊は借りて翌日にはまた5冊、を週に4日も続けられるほどに時間があるひとはそんなにいないはずだ。

元々、読むスピードは早い方だが、今はとくに

途中でページをめくる手を止める理由がなく、

集中出来るから余計に、だ。

 

本の世界に引き込まれて、リアルから逃避するのも悪くない。

夢を見たあとのような、残像効果で

遠くに旅してきたような感覚を味わうことができる。

 

彼を置きざりにしたまま、

頭の中だけではあれ、あちらこちらを彷徨っていると

 

なんて自由なんだろうとおもう。

 

ふたりでいるけれど

ひとりきり。

 

笑顔を見せ合った日々があったことが

嘘のようにおもえる。

 

嘘だったのかもしれない。