いちばん近くて遠いひと63
猫に倣っているような毎日。
眠りたいときに眠り、
目覚ましをかけず目が開いたら起き上り
お腹が空いたら食べ
読みたければ本を読み
出かけたくなったら玄関から出て行く。
猫だから
同居人に、
何処へゆくのか、ついでに済ませる用はないか、ちくいち報告したり尋ねたりしない。
いちにちを思うままに
思うように過ごし
人恋しくなったら疎遠になった友人に
ラインを入れ
夜中、同居人が寝息を立てるのを待って
彼の胸元に身体を滑り込ませる。
眠る時にだけ背中に熱を足したくなって。
寝床に潜り込むのはたやすく、
眠る彼は拒絶はしない。
かといって、わたしを待っていたわけではないことが、彼の腕の配置や、以前のように胸を凹ませて、わたしを丸みを持たせて包まないことが物語る。
窮屈な体勢のままにひと眠りした頃
必ず彼は目覚める。
眠っているふりをして、様子を伺う。
トイレに向かい、戻ってくるまで
姿勢を保って彼を待つ。
もとのように背面に身体を差し入れてくれたら
猫はまた明日も明後日も同じ場所にやってこられる。
彼は立ったまま、わたしを見下ろしている。
窮屈な場所へ戻るつもりはないらしい。
使われていないオットマンを移動させる気配がある。
わたしがソファから転落しないように
置いたのか、彼の為なのかわからない。
けれど起きる前と同じ体勢に戻るつもりは
ないらしい。
安眠を妨げてしまっただけ、だと理解する。
自分の身体のサイズが憎らしい。
猫なら
よかったのに。