★ひとファイル★

馴染んだ、親しんだ、愛した、嫌った、わたしが出会ったひと達のお話

かんがえる71

おもったことは

良くも悪くも共に暮らす以上

つつみ隠さず口にする方がいいと思ってきた。

急に不機嫌な態度をされたら

どうしたのかと問いかけたり

含んだような嫌味な言葉を受けたら

不快に感じたと正直に告げたり

 

そうすることで、次回をなくすことが

大事だとおもっていた。

 

けれどもそういうストレートなやり方は

彼には無効だと、重ねるごとに知った。

原因はすべてわたしにあり、わたしの浅はかな考えや、言動に反応しているだけだ、と彼は言うのだ。

 

彼の思う通りのわたしではなかったように

わたしの思う通りの彼ではなかった。

 

唯一だ

ほかにかえがききようがない

なくすことがこわくなる

 

重くて熱いそれらの告白が

えらく薄っぺらいものだと感じ始めたのは

いつからだろう。

 

かつて

彼とこうなるまえに

わたしが燃えるように堕ちた恋は

まさに盲目で

明日も明後日もない、未来がどうなっても

かまわないという堕落の果ての様相で

実際に、わたしは堕ちるところまで堕ちた。

その様を横で見ていた彼は

そのときのわたしのあの狂人じみた勢いが

今度は自分に向けられるのだ、と期待し、

わたしはわたしで

わたしのあの愚かで純粋なあの熱を

今度はわたしが受ける番になったのだ、と

胸を熱くした。

 

けれどもそうはならなかった。

 

彼は

わたしにあわせて自分を変えてきた、という。

そうではない。

変えてはいない。

最初こそ、ふたりになったのだ、と歓喜

その事実だけに酔いしれたものの、

時の経過とともに

わたしから与えられるものを計って、その量を見極め

見合うだけを与えようと冷静になっていっただけだ。

自身の考え方や、芯をゆるがせてまで

わたしを欲したかといえばそうではない。

彼は無条件でわたしを欲してはいない。

 

わたしの言動を先回りして予測したり

過去のそれらを拾い集めては解釈をつけたり

そうして

わたしのことをだれよりも知っている、と

言いながら

その彼からすれば不可解極まりない言動が

どうして起こるのかと、直に問いかけることはしない。

問いかけることなく、自身で結論づけ、

その結論をもとに、だからこの先はこうする、と反論の場をつくることなく実行に移すのだ。

 

 

わたしをしりたいのではない。

披露する相手は、とうの本人しかいないというのに

集めたそれらを分析することが好きなだけなのだ。

 

だから過程や、その時々の事情を

バサバサと端折るし、こちらが説明しようとしても

最後まで聞き取ろうとは絶対にしない。

 

恋愛なんてものは

思い込みと誤解と妄想で出来ているというのに

ちくいち分析すればするだけ

急激に恋愛でなくなる。

 

自分よりも大事におもえるか、

否だ。

 

事実

わたしは、わたしでなくなってまで

彼といたいと思えない、というのが結論だ。

 

我を押し通そうとせず

本音を圧し殺して、彼の琴線に触れぬようにと

努めても努めてもどうにもならず

ひと月ごとに、諍いを起こし

 

やはり彼は変わらず缶ビールを何本も空け

わたしはわたしで

鬱鬱とした毎日をただやり過ごす。

 

 

わたしのせいで

また元の闇に戻って行くであろう彼。

狡いとおもうのだ。

僕の孤独と不幸は

おまえのそれらとは雲泥の差があるのだ、と

わたしに植え付けておいて

 

去るとなれば

生死に関わるかもしれぬ、と、先に杭を打ち込んでおいて

 

非情の極みを

易々とやりきるオンナに仕立て上がらねば

わたしが彼を見限ることは出来ない。

 

離婚をして、周囲をバッサリ切り裂いたわたしに

さらなる罪を抱えて生きてゆけ、

おのれの罪を眺めながら朽ちてゆけと

いうことだ。

 

明日しぬかもしれないんだよ?

好きなことをして好きな場所で

好きなように生きてなんぼでしょ。

人生っていっかいしかないってしってる?

 

ほんの数年まえのわたしが無邪気に説教してくる。

あのこに会いたい。